MOCK-UP LUXURY

ULTRA STUDIOが装飾の価値を再考する一つのテーマとして向き合ってきたスカリオーラ（Scagliola）は、バロック期のイタリアで用いられた大理石のフェイク素材です。リアルな石の再現は一つの目的ではありますが、本物の石にはない色の顔料や模様を用いることで、架空の世界からやってきたような不思議な存在感が生まれます。それはフェイクが、なにかの偽物であることを超える可能性を持っているかのようです。 私たちULTRA STUDIOはふだん建築の設計をしていますが、設計のプロセスは何かのフェイク、模造品にあふれています。模型は建物を小さくコピーしたものですし、図面はそのさらなる抽象的な再現です。そしてふつうは、それらの二次的な制作物は実物の建物にはかなわないと考えられていますが、ときに模型や図面が実物以上の力をもって、さまざまな影響を与えることもあります。 設計プロセスの話にとどまらず、実際に建物に使われる素材にもたくさんのフェイクが見つかります。そこらじゅうで木目のプリントを見かけますし、石目“調”のタイルやビニールクロス（クロスは布の意味です）など、建築の現場はニセモノだらけ。特に大理石のような石目の再現はコンクリートの普及以来、さまざまな方法で探求されてきました。スカリオーラは、コンクリートによる擬石の登場によって廃れた技術だとも言えます。 そのような模造品をつくる技術には、本物を超える可能性が秘められているのではないか？私たちはそんな発想をもとに「フェイクだからこそできること」の探求を始めました。そして、かつてあった「驚異の部屋」という世界各地の珍しいものを集めた部屋のように、フェイクを集めることで本物を超える驚異を生み出せないかと考えました。 スカリオーラの自由な表情とさまざまなオブジェが交錯する眩惑的な装飾空間が、来場者の想像力を刺激し、好奇心を生み出すきっかけになることを願っています。